COLUMN

コラム

2022.03.04

データサイエンス人材が「あるべき姿」

DXが変えるビジネススキル

仕事で役立つスキルといえば、文章力、読解力、コミュニケーションスキルなどのほか、リーダーになればビジネス思考、コーチング、交渉力など、いろいろあります。もちろん、これですべてではありませんし、業界特有のスキルもたくさんあります。こうしたスキルは、ここ数十年で多少は変化しましたが、大きな変化はありませんでした。
しかしここにきて、ビジネスパーソンに求められる「基本スキル」が大きく変化しようとしています。その背景にあるのは「デジタル技術」の進化です。デジタル技術は科学者や技術者のためにあるのではなく、世の中をより良くするためにあるのです。そして実際、社会を、仕事を、私たちの生活を、変えようとしています。

すべてがデジタル化される未来

デジタル技術による変化を、一部の人たちは「アフターデジタル」という言葉で表現しています。それは、「すべてがデジタル化し、従来のアナログな部分もデジタルに取り込まれる」という意味です。
もちろん、ビジネスのデジタル化も進んでいます。「ビジネスのデジタル化」と聞いて、これまでも「業務でITを使ってきた」とか、「ネットを活用してビジネスをしてきた」といったことを思い浮かべる人もいると思いますが、注意したいのは、今起きている「デジタル化」はそれらとは明らかにレベルの違う話です。社会の根本的な部分がデジタル化されるのであり、デジタルを「活用」するのではありません。もちろん、「ITリテラシーが大事」といった捉え方では全く不十分です。
今起きていることは、デジタルありきですべてを考え直すということです。ビジネスも、それを支える業務もです。これまで「人」ありきで考えてきたビジネスや業務をデジタルありきで考え直し、業務改革をしたり、事業変革をしたりする。これこそが、「DX(デジタルトランスフォーメーション)」なのです。

「AIと一緒に働く」のが標準的な仕事のスタイル

デジタル化の本質は「データ化」です。データ化とは、コンピュータで処理したり分析したりできることを意味します。会社の業務がデジタル化されるということは、「業務=データ処理」になるということです。これは、単純な業務だけが対象ではありません。「業務上の判断」は「データに基づいた分析」になります。さらに、長年の業務経験があって初めて判断できるようなことであっても、データである以上分析可能です。おそらく膨大なデータを使って高度な分析が必要になるでしょうが、そうした領域にはAIがあります。

一時期、「AIに仕事を奪われる」との警鐘が鳴らされました。これは、「従来の多くの仕事はAIによって代替可能で、人は、従来とは違う仕事をするようになる」と解釈するのが正しいと思います。仕事のスタイルは「AIと一緒に働く」「AIが得意なところはAIに任せる」ようになるでしょう。これが、これからの「標準的な仕事」のスタイルです。

 

学校教育の数学をビジネススキルとして体系立てる

例えば、データを分析するには大量のデータを図にして可視化することが必要で、単純な棒グラフや折れ線グラフだけでなく、散布図やヒートマップなどの図表化スキルが求められます。そのほか、回帰分析やヒストグラムなどの手法を学ぶ必要もあるでしょう。
データを活用するには、確率統計が基本となりますが、線形代数、微分積分などを学ぶことによって高度な分析を行うための根幹を身につけることができます。
いずれも、学校教育でいえば「数学」の分野に入るものです。つまり、これからのビジネスパーソンにとって、「数学」はより重要になるのです。ジャンルによってはやや高度な知識が必要ですが、学校教育の数学のすべてが必要になるわけではありません。忙しいビジネスパーソンが中学数学からすべて学び直すというのは現実的ではなく、求められるのは、ビジネスパーソンに求められるスキルを、学校教育の数学と結び付け、効率よく、無駄なく学習できるように体系立てることです。

 

理系科目が不得意な人でもなれる

「デジタル化」はもちろん日本だけで起こっているのではなく、世界のトレンドです。このトレンドに乗り遅れると日本は世界から取り残されてしまいますので、国も教育界も人材のスキルシフトに本腰を入れ始め、「データサイエンス人材」を増やそうと躍起になっています。こうした流れに乗って、『データサイエンス数学ストラテジスト』資格制度が2021年9月に設立されました。
言葉として似ている人材像に「データサイエンティスト」があります。誤解がないようにしておくと、『データサイエンス数学ストラテジスト』資格制度は、「データサイエンティスト」と無関係ではありませんが、データサイエンティストを育成する制度ではありません。データサイエンス数学ストラテジストはすべてのビジネスパーソンが目指す人材像であり、目指す姿は「データ分析できる」「データ活用できる」「AIと一緒に仕事ができる」人材です。AIと一緒に仕事をするのに、データサイエンティストのような高度なスキルは必要ではありません。何をAIに任せるべきかを判断し、実際にAIに任せ、AIが出した結果を活用すればいいのです。
「データサイエンティスト」を目指す人はもちろん必要ですが、ハードルが高いのも事実です。それに対して「データサイエンス数学ストラテジスト」は、すべてのビジネスパーソンが一定の学習で習得できるように考えられています。たとえ理系科目が不得意な人であっても、一定の学習をすれば習得可能なはずです。

将来は、すべてのビジネスパーソンがデータサイエンス数学ストラテジストでもある。そうした未来は「あるべき姿」のように思います。

 

column01_01日経BP 技術メディアユニット
編集委員 松山貴之